「はばかる」


 「憎まれっ子、世にはびこる」
 こういうことを言う人がいた。年配の方だ。少々残念に思いながら、正しく直してあげずにいた。それは、「言い得て妙だ」と思ったからだが、年上の人の間違いを指摘するのはなかなか難しいというのが本音である。
 さて、ボクは、「はばかる」というのは「遠慮する」という意味だと思っていたので、この言葉については混乱がある。憎まれっ子が遠慮してはばかるのであれば、それは憎まれっ子ではなく、慎み深いよい子になってしまうわけで、内容に矛盾が生じる。その子は良い子なのか良くない子なのか。困ったときは辞書を見るべし。
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 ・憎まれっ子、世に憚(はばか)る     
   人から憎まれるような人間のほうが、かえって世間では威勢をふるうものだ、の意。
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 ふむふむ、では「はばかる」とは何だ。
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 [一](一)さしさわりがあるとして、さしひかえる。
      遠慮する。
    (二)障害にあって進むことをためらう。
 [二](一)はばをきかせる。大きな顔をする。
    (二)いっぱいに広がる。はびこる。
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 という結果。つまり、「はばかる」は「はびこる」という意味で使うこともあるということ。かの年配の方の間違いは、やはり間違いだと断定はできない。しかし、なんということであろう。実にいい加減な言葉である。よく見て頂きたい。「はばかる」の意味の[一]と[二]とは、まったく逆ではないか。
 子どものころ、妖怪ふたくち女というのにびくびくしたけれど、こんなところにもいたのだ。二つの意味をもつ言葉。

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