「〜げに」


 「気持ちよさげに」とテレビが言う。そういえば、「なんだかよさげ」とか、「自信なさげ」とか、あちこちですでに使われている。侵蝕率は「なにげに」に迫る勢い。もともとこんな言葉ではなかったはずだ。

 悲しげなまなざし  何か言いたげな顔  恐ろしげな口ぶり  楽しげな声

 こんな使い方である。「ナントカ+げ」という形は、平家物語にも見える由緒ある言葉だ。「扇の的」で、那須与一は、波間に漂う船上の的に向かい、一発必中を神に祈るが、目を開けたとき、風は勢いを落とし、波も穏やかになり、与一には「扇も射よげにぞなつたりける」と見えたのだった。ここで「射よげ」とは、「射よと言いたげな様子」だと思うが、「射やすくなっていた」とか意訳が載せられている。
 そういうわけで、なんにでも「げ」をつければ良いというものではない。「悲しい」「したい」など、気持ちを表す言葉のおしまいの「い」の代わりに「げ」をつけてみれば、きっと正しい使い方になるはずである。
 岐阜の子は語尾に「げ」をつけるが、「あいつ、悲しげやげ」と使うのが正しい。

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