「二文字」 


 以前、本欄で「しゃもじ」について触れた折りに、「文字詞」というものがあったことを書いた。ものごとはっきり伝えるのがはばかられる場合などに用いられたもので、女房言葉として始まったものが次第に庶民にまで広められたものらしい。 
 人前で言うと恥ずかしいものには、「ニンニク」とか「ねぎ」などがあった。においの強い食べ物のことを言うのは、女性としてはやはりはばかられたようだ。だから、ギョーザの好きな女性はおかしいと思われるわけだ。 
 そういうわけだから、「ニンニク」は名前を伏せて「に文字」と言った。「ねぎ」は古くは「き」と一文字で言ったので「ひともじ」、「ニラ」はふたもじなので「ふたもじ」と呼んだという次第である。 
 ましてや「酒」なんてものは頭文字を取るぐらいでは収まらず、なんと「くもじ」と呼ばれている。三三九度で、つまり九献(くこん)だから、その頭を取って「くもじ」である。ややこしいが奥床しくもある。
 言いにくいことをごまかして言えるというのは便利なものかも知れない。 

 「どうだった? 今日のテ文字」 
 「うん、さっぱりわ文字だったわ」 
 「そう、お互いか文字がうるさいからたまらないわね」 

 以上は創作であるが、気持ちは伝わったと思う。

 

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