オオサンショウウオの移動式人工産卵巣穴
− 開発と生活史の解明および保護に向けての成果 −
 
郡上高等学校 山田 徹 

1 目 的
 移動式人工産卵巣穴(以下人工巣穴と表記)を開発し、オオサンショウウオの生活史の解明および保護に向けての成果を調査する。

2 準 備
コンクリート性丸桝(直径60cm×高さ40cm) 1個
コンクリート性丸桝(直径60cm×高さ20cm) 1個
丸スラブ(コンクリート性または鉄板、直径60cm)         1個
鉄板(60cm×60cm) 1枚
ボルト 6個
ナット 6個

3 原理と方法
(1) 移動式人工産卵巣穴の開発
 以下の図は、広島市安佐動物公園の鈴木信義学芸員から提供していただいた設計図をもとにSHADEというソフトで3D化したものである。これをもとに制作していく。コンクリート、鉄板の加工は困難であるため、これらの加工は業者に依頼した。
  

(2)設置地点の検討
 人工巣穴の設置の目的を達成し、効果的に機能させるためには、適切な地点に設置する必要がある。そこで、平成7年度から得ている生息分布状況や識別した個体の行動の追跡を基に検討をした。
@生息分布状況
 個体の発見地点を大間間見川との合流を起点にした距離で表し、調査ごとにどう推移するかをグラフ化してみた。
 平成8年を除き、主な調査区間は大間見川との合流点から上流2000mの地点までである。平成11年を境に1000mより上流の発見個体数が激減している。主な原因として、平成11年9月14日の台風14号による豪雨災害、平成8年以降に行われている河川工事があげられる。したがって合流点から1000mより上流の地点の生息数の回復は急務と考えられる。


A産卵直前の移動状況

 前出のグラフに、産卵直前に発見された同一個体を抽出し、その移動状況を重ね合わせると行動の特徴が読みとれる。このグラフから、合流点より約610mの地点、合流点より約670mの地点、合流点より約890mの地点、合流点より約940mの地点の4地点に集合してくる様子が読みとれる。 オオサンショウウオは、産卵前に産卵地点に集合してくる「産卵期移住」という行動をするといわれている。この行動によれば、先の4カ所の集合地点は産卵地点である可能性が高い。


B設置地点
@Aの分析結果をもとに、次の5カ所に人工巣穴を設置した。下流から、人工巣穴A〜Eで区別することにする。
 ・人工巣穴A:合流点から330m(合流点から1番目の堰堤下の右岸側)
 ・人工巣穴B:合流点から955m(合流点から2番目の堰堤下の左岸側)
 ・人工巣穴C:合流点から990m(合流点から3番目の堰堤下の左岸側)
 ・人工巣穴D:合流点から1740m(合流点から6番目の堰堤下の右岸側)
 ・人工巣穴E:合流点から2000m(合流点から7番目の堰堤下の左岸側)

C設置地点の状況
 ◇各設置地点の写真参照(各人工巣穴の名をクリックしてください。

   人工巣穴A1 ・ 人工巣穴B1 ・人工巣穴C1 ・ 人工巣穴D1 ・ 人工巣穴E1

   人工巣穴A2 ・ 人工巣穴B2 ・人工巣穴C2 ・ 人工巣穴D2 ・ 人工巣穴E2  

5 結 果
(1)観察記録
@7月7日(土)








  観     察     記     録
人工巣穴A  生息個体はなかった。出入口、内部が土砂で埋まっていたので、これらの土砂を除去した。
人工巣穴B 3匹の生息を確認。捕獲し、個体データを取得した。
人工巣穴C  生息個体はなかった。出入口、内部が土砂で埋まっていた。これらの土砂を除去した。
人工巣穴D 生息個体はなかった。土砂による埋没はなかった。
人工巣穴E  生息個体はなかった。出入口は水面より上にあり、設置位置、高さに問題がある。

A8月1日(水)





 
  観     察     記     録
人工巣穴A 生息個体はなかった。
人工巣穴B 3匹の生息を確認。
人工巣穴C 生息個体はなかった。
人工巣穴D 生息個体はなかった。
人工巣穴E 生息個体はなかった。出入口は水面より上にある。

B8月7日(火)






 
  観     察     記     録
人工巣穴A 生息個体はなかった。
人工巣穴B 4匹の生息を確認。
人工巣穴C 生息個体はなかった。
人工巣穴D 生息個体はなかった。
人工巣穴E 生息個体はなかった。出入口は水面より上にある。 

C8月11日(金)





 
  観     察     記     録
人工巣穴A 生息個体はなかった。
人工巣穴B 6匹の生息を確認。捕獲し、個体データを取得した。
人工巣穴C 生息個体はなかった。
人工巣穴D 生息個体はなかった。
人工巣穴E 生息個体はなかった。出入口は水面より上にある。

D8月17日(金)





 
  観     察     記     録
人工巣穴A 生息個体はなかった。
人工巣穴B 3匹の生息を確認。
人工巣穴C 生息個体はなかった。
人工巣穴D 生息個体はなかった。
人工巣穴E 生息個体はなかった。出入口は水面より上にある。

E8月24日(金)






 
  観     察     記     録
人工巣穴A 1匹の生息個体を確認。
人工巣穴B  2匹の生息個体を確認。巣穴の出入り口で頭を出し、威嚇するような行動も観察された。
人工巣穴C 生息個体はなかった。
人工巣穴D 1匹の生息個体を確認。捕獲は行わず。
人工巣穴E 生息個体はなかった。出入口は水面より上にある。
  ※台風11号の影響で、やや増水していた。

F9月1日(土)






 
  観     察     記     録
人工巣穴A 生息個体はなかった。
人工巣穴B  1匹の生息個体を確認。巣穴の出入り口で頭を出し、威嚇するような行動も観察された。
人工巣穴C 生息個体はなかった。
人工巣穴D 生息個体はなかった。
人工巣穴E 生息個体はなかった。出入口は水面より上にある。

G9月11日(火)





 
  観     察     記     録
人工巣穴A 生息個体はなかった。
人工巣穴B 1匹の生息個体を確認。巣穴の出入り口で頭を出していた。
人工巣穴C 1匹の生息個体を確認。
人工巣穴D 生息個体はなかった。
人工巣穴E 生息個体はなかった。

H9月14日(金)





 
  観     察     記     録
人工巣穴A 生息個体はなかった。
人工巣穴B 1匹の生息個体を確認。巣穴の出入り口で頭を出していた。
人工巣穴C 生息個体はなかった。
人工巣穴D 生息個体はなかった。
人工巣穴E 生息個体はなかった。

(2)人工巣穴に生息していた個体の行動の追跡
 利用されていた巣穴は人工巣穴A〜Dで、人工巣穴Eは利用された形跡はなかった。人工巣穴Bは常に個体の生息が認められた。
 人工巣穴Bを利用していた個体についての個体調査を7月7日、8月11日の2回行い、個体識別のためのデータを収集した。過去に収集した個体データとの照合を行い、同一個体を割り出し、人工巣穴に生息していた個体の行動を追跡してみた。次ページの図は、その分析結果をもとに人工巣穴の利用状況を模式的に示したものである。
 これより、次のことが指摘される。

@巣穴を利用していたのべ9個体のうち、過去の調査で捕獲されていたものは7個体であった。

A7月7日から8月11日にかけて、継続して巣穴を利用していたのは1個体のみである。7月7日 に捕獲した3個体のうち2個体は巣外へ移動し、8月11日までに新  たに5個体が巣内へ入った。
B8月17日には、捕獲を行わなかったため生息していた個体の登録番号は不明であるが、生息個体は再び3個体となった。

 以上より、特定の個体が人工巣穴を占有していたのではなく、短期間にかなりの頻度で入れ替わっていた。この生息個体の入れ替わりは繁殖行動に関わる競争が行われている結果と推定され、おそらく、人工巣穴に限らず自然状態の巣穴でも状況は同様であると考えられる。個体調査時に四肢の怪我のある個体や頭頂部に怪我のある個体が発見されるが、これらは、このような競争の証拠ととらえられる。



(3)産卵について
 オオサンショウウオの産卵の時期は、8月下旬から9月上旬といわれている。9月14日まで観察を行ったが、人工巣穴での産卵は行われなかった。

6 まとめ
 オオサンショウウオの産卵は、普通は、岸にできた横穴や石と石または石と河床の隙間であることが多い。したがって、通常はヒトの目に触れにくい場所であるので、観察を行うにはファイバースコープ等の特殊な装置が必要となる。人工巣穴は観察を容易にし、産卵から発生の過程、幼生のふ化や成長の様子など追跡していくことが可能となり、これまで不明であった生活史の解明に大きな期待が持たれる。また、産卵させること成功すれば、繁殖の場所を提供し、生息数の回復につながるので保護活動の一環ともなる。
 残念ながら、今年は産卵が行われなかったので、来される成果をあげることはできなかった。しかしながら、設置できた意義は大きい。

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