ヒゲナガカワトビケラ幼虫の河川浄化能力測定
大垣北高等学校  船越進太郎


1 目 的
 ヒゲナガカワトビケラ属の幼虫が、河川の浄化にどれくらいの役割を果たしているのか、簡単な装置を作成し、飼育実験を実施することによって、本属の1種ヒゲナガカワトビケラ幼虫の浄化能力について調べる。

2 準 備
 循環装置、ポリバケツ、ホース、プランクトンネット、乳鉢、るつぼ、自動上皿天秤、ろ過装置、燃焼器具、ビーカー、メスシリンダー

3 原 理
 川底で網を張り、流下する有機物をとらえて補食するヒゲナガカワトビケラを循環装置で飼育し、与えられたサクラ葉粉末の処理量を測定すれば、河川の浄化能力を知ることができる。

4 方 法
(1)実験装置と幼虫の有機物処理量の測定
 作成した実験装置は、市販されている水槽の循環器にホースを取り付けて、ポリバケツの水が循環するようにした簡単なものである。これらの装置を2台作り、循環器およびポリバケツの中にはほぼ同体積で同数の川石を入れた。水は1分間に20.25リットル流すことができ、片方の循環装置およびポリバケツにヒゲナガカワトビケラの終令、亜終令幼虫を入れた。両幼虫の割合はほぼ終令9に対し亜終令1である。もう一方は幼虫を入れず対照区とした。トビケラ幼虫が巣を作ったころをみはからって両方の容器にサクラの葉の乾燥粉末(約1mm)を同量入れた。乾燥粉末を用いたのは細かく破砕するためと水分量を差し引いてより正確な有機物量を求めるためである。その後1週間程度をめどに両容器から一定量の水を取り出してろ過した。終了した時点でろ紙を乾燥させて重量を測定した。取り出した水はその都度、同量補給した。

(2)河川の有機物流下量の測定
 あらかじめ流速を測定した調査場所に直径30cmのプランクトンネットを固定した。ネットが完全に水中に固定されるように紐は川底の石に縛り付けた。1時間に流下する物質をネットで受け、収集容器にとって実験室へ持ち帰った。採集物はろ過した後、乾燥させた。乾燥したろ紙上の物質はろ紙とともに重さを計った。さらに、バーナーとるつぼを用いて完全に燃焼させ、燃焼後の重量を測定した。次の式で有機物量を求めた。
    有機物量=(乾燥量−ろ紙量)−(完全燃焼量−ろ紙の完全燃焼量)
 ろ紙は1枚1枚が微妙に重量が異なるので20枚の重さを計りその平均値をろ紙の重さとした。ろ紙もあらかじめ燃焼させ、燃焼後の重さを測定した。

5 結 果
(1) 幼虫の有機物処理量
  6月および7月の2回の実験結果をそれぞれ表1および2に示す。6月の実験は100匹の幼虫を、7月の実験は73匹の幼虫を実験区に入れた。実験材料はおおむね成熟した5令で、平均体重は525mgであった。表の数値はろ紙上に残った粉砕サクラ葉の乾燥重量を示す。
 有機物の処理量を以下のように判断した(表2から計算例を示す)。
 1つの容器(循環器およびポリバケツ)に入れた水量 0.017m
 使用した水量 0.017+O.OO5(5回加えた水)=0.022m
 この中に14.55gのサクラの乾燥粉末を入れた。
 9日間で処理されたサクラの粉末量1.743g(表2)
  流れた水の量 1分間に 20.25リットル
     9日間では 20.25 × 60 × 24 × 9=262440リットル
                      262.44m
 この中に含まれるサクラの葉の粉末量
     0.022 : 14.55 = 262.44 : 
              X=173570.91g
 9日間で173570.91gの有機物を含む水262.44mが流れた。これが73匹のトビケラ生息地を流れると1.743gの有機物が処理されることになる。ただし、幼虫の排泄物は考慮していない。

表1 ヒゲナガカワトビケラの有機物処理量の測定値g(20.25リットル/分/100匹)
(数値はろ紙上に残った粉砕葉の乾燥重量を示す。)

日時 6/20 6/22 6/23 6/24 6/26 6/27 平均
(開始後日数) (1) (3) (4) (5) (7) (8) - -
実験区 0.702 0.559 0.619 0.683 0.579 0.489 3.631 0.605
対照区 0.825 0.704 0.983 1.322 1.220 0.884 5.938 0.990
0.123 0.145 0.364 0.639 0.641 0.395 2.307 0.385

表2 ヒゲナガカワトビケラの有機物処理量の測定値g(20.25リットル/分/73匹)
(数値はろ紙上に残った粉砕葉の乾燥重量を示す。)

日時 7/17 7/18 7/19 7/20 7/21 7/24 平均
(開始後日数) (2) (3) (4) (5) (6) (9)
実験区 0.612 0.592 0.570 0.558 0.564 0.569 3.465 0.578
対照区 1.276 1.121 0.804 0.691 0.670 0.646 5.208 0.868
0.664 0.529 0.234 0.133 0.106 0.077 1.743 0.290

(2) 河川の有機物流下量
 表3にこれまで調べた調査地点の有機物流下量を示す。河川のそれぞれの場所によって流速、流量が異なり、有機物の流下量も一様ではない。また、日時によってもこれらの条件は異なり、全体像を把握するには長期にわたる調査が必要である。ここでは、6回の調査値の平均より174.22m(1時間の流水量の平均)あたり約1.900gの有機物が流れていると推定した。

表3 1時間にプランクトンネットに流下した有機物量(乾燥重量:g)

調査地 岐阜藍川橋 岐阜千鳥橋 岐阜藍川橋 美山町今島 美山町今島 下呂町
河川名 長良川 長良川 長良川 円原川 円原川 飛騨川
月 日 6/17 7/15 7/26 7/28 7/29 8/3
流 速 m/s 0.542 0.738 0.715 0.880 0.880 0.354
流下量 g 1.696 5.729 2.123 1.581 29.063 0.320
燃焼重量 g 1.690 2.392 0.853 0.076 26.318 0.288
有機物量 g 2.507 3.337 1.271 1.505 2.745 0.032

6 考察(おわりに)
(1) 幼虫の4、5令経過(仮定)
 幼虫の大きさ(5令および4令の幼虫頭幅の平均は2.23および1.49mmであった。)から、主として河川を浄化する能力を持つ幼虫を終令(5令)および亜終令(4令)と考えた。4令と5令の幼虫期間は非越冬世代と越冬世代で異なり、Nishimura(1984)は次のように報告した。(河川により、また、同一河川でも上・下流により異なるので一応の目安として引用した。)
非越冬世代 4令 12.8日 5令 61.1日
越冬世代 4令 12.0日 5令 105.8日
 それぞれの平均を合計すると95.9日となり、この日数を河川の浄化に能力を持つ4令、5令の幼虫期間と仮定した。

(2)幼虫の4・5令期における有機物処理量の換算
 6月の実験より8日間で440284.2gの有機物を含む水233.280mが流れると100匹のヒゲナガカワトビケラは2.307gの有機物を処理した。これを95.9日間に換算すると、
8日間 440284.2 = 95.9 : X =5.278×10
8日間 233.28 = 95.9 : Y =2.796×10
8日間 2.307 = 95.9 : Z =27.655g

 
7月の実験より9日間で173570.9gの有機物を含む水262.440mが流れると73匹のヒゲナガカワトビケラは1.743gの有機物を処理した。これを4〜5令期間の95.9日に換算すると
9日間 173570.9 = 95.9 : X =1.849×10
9日間 262.44 = 95.9 : Y =2.796×10
9日間 1.743 = 95.9 : Z =18.573g

 さらに100匹に換算すると
73 1.849×10= 100 : X =2.533×10
73 2.796×10= 100 : Y =3.831×10
73 18.573 = 100 : Z =25.442g

 以上をまとめると次の表4のようになる。

表4 水量と流下有機物量および幼虫の有機物処理量との関係
- 6月 7月 平均
流下水量 (10) 2.796 3.831 3.314
流下有機物量(10g) 5.278 2.534 3.906
幼虫の有機物処理量(g) 27.655 25.442 26.549

 水量や有機物に大きな差があるにもかかわらず、今回実験で用いたヒゲナガカワトビケラ4・5令幼虫100個体はほぼ同程度の有機物処理能力を持つと考えられた。

(3)河川調査地の水量
 調査をした1mの水深の平均は約50cmであったことから、横断面積を求め平均流速0.685m/sに95.9日の秒数を掛けた。

   
1×0.5×0.685×60×60×24×95.9=2837872.8m

 流水量は日々変動し、表層と下層でも異なる。ここでは測定容器ができるだけ水中を流れるように工夫し、10m間を流下する時間をそれぞれの調査地で10回ずつ測定した。

(4)調査地に含まれる有機物量の推定(そのT例)
 調査結果より174.22mの水量あたり1.900gの有機物が含まれることから上記の水量に含まれる有機物は次の計算で求められる。
   174.22 : 1.900 = 2837872.8 : X
          =30949.135g

(5)有機物を処理するために1mに必要な個体数
 100匹のヒゲナガカワトビケラが95.9日に26.594gの有機物を処理することから、30949.135gの有機物を処理するのに必要な個体数は
  28.549 : 100 = 30949.135 : X
          =116573.63匹

(6)1mあたり100匹生息する河川を何キロ流れれば、有機物は処理されるか
 100匹で1mならば116573.63匹で1165.736mとなる。すなわち 、ヒゲナガカワトビケラが1mあたり100匹生息する河川ならば1.188km流れれば有機物は浄化されることになる。

(7)今後の課題と謝辞
 6および7月に行った2回の飼育実験と少ない野外調査の結果から、ヒゲナガカワトビケラ幼虫の河川浄化能力の推定を行った。当然、結論を導くには無理があり十分な考察にまで至っていない。今後は通年にわたって実験を繰り返すとともに野外での調査も積み重ね、浄化能力の詳しい測定を行う予定である。
 今回、不十分な資料であるにもかかわらずヒゲナガカワトビケラの生態等でご教示を頂いた兵庫陸水学会、西村登博士にお礼を申し上げる。

引用文献
Nishimura,N.(1984)Ecological studies on the net-spinning caddisfly,Stenop
 sychemarmorata Navas 6. Larval and pupal density in the Maruyama River,
 central Japan, with special reference to floods and after-flood
 recovery processes. Phrsiol.Ecol.Japan,21:1―34.

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