3.三角形の内角の和は2直角か(曲面幾何学への誘い NO.1)




上の議論で、球面上の直線とは大円のことでした。

「直線が円?」と思うかもしれませんが、球面上に生活している(高さがない世界で)としたら、この大円が直線と思えるのではないでしょうか。以下、球面上の大円である直線を「直線」と書きます。

さてここでは、球面上に、この「直線」を使って図形を描き、その性質を観ていきましょう。

最も簡単な図形は三角形です。

平面上で三角形とは、1点で交わっていない3本の直線で囲まれた領域のことでしたが、球面上での三角形も、全く同じように定義します。すなわち、三角形とは、1点で交わっていない3本の「直線」で囲まれた領域のこととします。

このように、
数学では、平面から球面に状況が変わっても、定義を継承していきます。このことは、考え方の終始一貫性を保つための大切な姿勢であり、数学の美学でもあります。

球面上に、3本の「直線」で囲まれた三角形を描いてみましょう。

再確認しますが、この三角形の3辺は、それぞれ「直線」である大円の一部であり、「線分」です。(両端を持つ、直線の一部分を「線分」という。)

次に、球を縦横水平に8等分する3本の「直線」で囲まれた三角形を描いてみましょう。

この三角形の3辺の長さは、球の中心からこの辺をみる角度(中心角)がいずれも90°ですから、等しくなります。つまり正三角形です。
さて、この正三角形をよく見ると、いくつか奇妙な性質が見つかります。

その一つ目は、内角に関することです。

この正三角形の2辺は経線であり、他の一辺は赤道ですから、3つの内角はいずれも直角です。(ちなみに、直角や垂直の定義は、その角を2回継ぎ足すと「直線」に開く角のことです。)
ですから、この正三角形は直角三角形でもあり、内角の和は3直角になっています。あえて名前を付けるならば、「3直角三角形」です。

二つ目の奇妙な性質を観てみましょう。

一つの頂点(たとえば、北極点)から底辺(赤道)に垂線を下ろしてみましょう。すると、どこに下ろしても全て垂直です。
では実際に6本の垂線を下ろして、分割してみると、

となります。これらの7つの三角形は、あえて名前を付けるならば、「2直角2等辺三角形」ですね。

このように、球面上の三角形は、平面上の三角形とは性質が異なることがわかります。


「一点から何本も垂線を引くことができる」状況が起こるということは、「平行線とは何か」いうことを再確認することが必要であることを示唆しています。

地球上の全ての経線は、赤道に対して垂直です。しかもそれらは全て北極点と南極点で交わります。
平面上では、「一本の直線に垂直な直線は、すべて平行になる」という常識は、球面上では通じないようです。

また、次のことも今までの常識に反します。
つまり、経線以外の「直線」も大円でしたから、任意の二本の「直線」は必ず交わります。

すなわち、
球面上の「直線」は必ず交わり、平行な関係は存在しない
ことになります。

緯線は同心円を形成し交わりませんが、赤道以外の緯線は「直線」ではありません。

以上、地球上の東西南北の概念を通して、球面上の幾何学の一端を紹介しました。

人間は3次元空間の中に住んでいますが、地面に張り付いていて、日常的にはあまり高さを意識していませんね。しかも、その地面を平坦な平面と思っていても、大きな間違いは生じません。人類の歴史を振り返っても、地球が丸い曲面であることは、つい最近(15世紀ごろ)わかったことでした。
自分たちが住んでいる空間が平坦ではなく、曲がっているというを認識することは、大変難しいことなのです。


メニューに戻る