5.私たちの住んでいる3次元空間は曲がっているか(曲面幾何学への誘い NO.3)


もし人間が、縦と横の概念しかない2次元空間に住んでいるとしたら、その2次元空間の曲がりがわかるでしょうか。

2次元空間内では、あらゆる物が曲面に沿って曲がっていますので、その曲がりに気がつくことは容易なことではないと想像できます。

私たちが住んでいる世界は3次元空間ですので、高さという概念があります。
従って、2次元空間の曲面を、3次元空間内に描かれた図形として見れば、その曲がり具合も一目瞭然です。実際、「4.球面以外の代表的な曲面」で、様々な曲面を3次元空間から観た視点で、眺めました。

さて、私たちが住んでいる3次元空間は、平らなのでしょうか、それとも曲がっているのでしょうか。もし曲がっていたら、私たちは気がつくのでしょうか。

この議論は、「地球が平らなのか、曲がっているのか」という人類歴史上の議論と同じですね。ただし、2次元が3次元に変わったという違いはあります。

この議論するためには、球面のときに「まっすぐ」という概念を確認したように、3次元空間でも「まっすぐ進む」ということを再確認しなければなりません。そのためには、3次元空間内でまっすぐ進むものを見つけなければなりません。それは何でしょうか。

身近で議論しやすいものといえば、光ですね。

光は、3次元空間を、その曲がりに沿って「まっすぐ」に最短コースを進みます。

この性質を利用して、私たちの住んでいる3次元空間が平らなのか、曲がっているのかが検証していきましょう。

その方法は、
もし3次元空間が曲がっているならば、光はその曲がりに沿って進むので、光が曲がった「痕跡」を捉えれば、3次元空間の曲がりがわかる
という理屈です。

私たちは光を強制的に曲げる術を知っています。光は、異なる媒質を通過するとき、「屈折」や「反射」 という現象を起こします。これらの現象は日常的に馴染み深い現象です。この現象を積極的に利用したものがレンズや鏡などです。

さてここでは、レンズによって光を人工的に曲げて、そこで起こる現象を観察してみます。そして、もし、媒質のない真空の3次元空間で、すなわち広大な宇宙空間で、同様の現象が観測できれば、その空間が曲がっていることの「痕跡」と捉えることができます。すなわちレンズにより、広大な宇宙における3次元空間の曲がりを疑似体験してみよう、というわけです。
では早速やってみましょう。

まず、青玉と、それより少し小さい赤玉を用意します。赤玉は青玉の向こうに置き、視点からは見えないようにします。
さて、見えないはずの赤玉を、レンズを上手く使って見えるようにできないでしょうか。


レンズによって、見えないはずの物が見えるようになるか。


@青玉の向こうに、小さい赤玉を置く。



Aこの位置に視点を置く。



B球形のレンズを、青玉の位置に置く。



C球形レンズの屈折により、赤玉が見える。




(動画)


このように、青玉の位置に、大きく光を曲げる球形レンズを置くことにより、赤玉から出た光は、青玉の周辺で曲げられて、目に入ってきます。また球形レンズの大きさにより、赤玉の見え方も様々です。

これに似た現象、すなわち 「手前の星または星雲で遮られて見えないはずの星または星雲が、歪んで見える」 という現象が、広大な宇宙空間でいくつか観測されています。

   *詳細はハッブル宇宙望遠鏡の公開写真のサイト(http://oposite.stsci.edu/pubinfo/Pictures.html)などを参照してください。

広大な宇宙空間には、星、星雲、星間物質と、そして真空な空間が存在しています。その真空の空間内には、レンズのように光を屈折させる媒質に当たるものは存在していません。 では、何が光を曲げているのでしょうか。物理学では、「それは3次元空間の曲がりがそうさせる」と考えています。

少しだけ物理の世界を覗いて見ましょう。
3次元の宇宙空間は、物質がない場所では曲がっていません。「曲がっていない」とは言うものの想像しにくい状況ですね。しかし、2次元空間が「平らな平面」であったことから連想するしかありません。またこのことは、「3次元空間的に、平らである」という言い方もできます。
物質が存在する場所では、その周りの3次元空間が歪みます。このことは、2次元空間の平らな平面上に物体を置くと、その重みで平面が窪むことを連想してください。


2次元空間の窪みから、3次元空間の曲がりを連想してみよう。


【図形の操作方法】
  • 回転=マウスの左ボタンを押したままドラッグする
  • 自転=マウスの左ボタンを押したままドラッグして離す
  • 拡大=SHIFTキーを押しながら、マウスを垂直下向きにドラッグする
  • 縮小=SHIFTキーを押しながら、マウスを垂直上向きにドラッグする
  • 傾斜=SHIFTキーを押しながら、マウスを水平方向にドラッグする
  • 分解=マウスの右ボタンを押したまま、垂直下向きにドラッグする
  • 組立=マウスの右ボタンを押したまま、垂直上向きにドラッグする
  • 復元=HOMEキーを押す



2次元空間は、トランポリンに球を置いたように、窪みます。



球の代わりに2次元円盤を置いたとき

【教師への専門的情報】
  • 曲面の方程式は、z(x,y)=-1/Sqrt[x^2+y^2]であり、
    重力場のポテンシャルを表しています。
  • 従って、-grad[z(x,y)]が引力になっています。
  • 曲面は、球の表面と接する位置まで表示しています。

2次元空間内の光は、この窪みの曲がりに沿って、下図のように「まっすぐ」進みます。



窪みの曲がりに沿って「まっすぐ」進む光の経路

3次元空間に住む私たちから見ると、上の経路は明らかに曲がって見えますが、2次元空間に住んでいる住人からみると、これが「まっすぐ」なのです。
この光は、曲がっていなければ遮られて通過しない位置にありますが、窪みの曲がりに沿って、「まっすぐ」進んだ結果、目に入ってきます。

いかがでしょうか。納得できましたか。確かに想像しにくいものですね。

2次元空間の住人が、自分の住んでいる2次元空間の曲がりを想像することは困難ですが、3次元空間から2次元空間をみると、地球の表面が球面をしていることは一目瞭然です。従って、3次元空間の曲がりは、4次元空間から見れば一目瞭然なのでしょう。(4次元空間については、「数学鑑賞館 鏡のいろいろ」を参照してください。)

以上、地球表面の話題から出発して、平面幾何学でない幾何学の世界を垣間見ました。




「曲面のいろいろ」を終わるに当たって、幾何学の発展を歴史的に見ていくと、

人間と幾何学とのつき合いは、「数」の概念とともに有史以前に遡りますが、やがて紀元前後のユークリッドによる幾何学の集大成を経て、今日では、平面幾何学はユークリッド幾何学として精密で揺るぎない体系が築かれてきました。

その過程で、中世以降、

などの疑問が湧いてきたり、それを暗示するような現象が見つかったりして、それらに答える営みが盛んになされました。それに伴い、曲面幾何学のように平面幾何学とは全く異質の様々な幾何学の世界が芽生えてきました。

さらに加えて、

するなど、

空間の曲がりに端を発して、空間を測ることに関連した現代科学が「爆発現象」とも言えるほどの発展を遂げ、そして今も発展が続いています。


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