さて,0という概念とその記法の発見は人類の歴史上相当あとの出来事であることはよく知られていますし, 通常0を自然数に入れないことも周知の通りです。従って,自然数をその大きさの順で言うとき, 自然数の出発点は,その最小値1とすることになります。日常生活の中でものを数えるとき,1枚,2枚,3枚,・・・ のように数えるのですから,自然数の出発点について何も問題ではないように思われます。
しかし,そのことが不都合な状況を引き起こす事態もしばしば体験するのではないでしょうか。例えば次のような有名な笑い話が あります。ある老数学者が大学の研究室の改築に伴って永年住み慣れた2階の研究室から4階に引っ越したとき, 階段を上る階数が3倍になったことをひどく嘆いた,というものです。この場合,建物の階数が1階から始まるのではなく0階から 始めたら如何でしょうか。イギリスのように1階がグランドフロア,2階が1階,3階が2階として上の笑い話を言い換えると, 1階の研究室が3階に引っ越したので,昇る階数が3倍になった,と言うことになり,分かり易い。
このように建物の階数を数えるときに,0階,1階,2階,3階,・・・とする方が合理的にみえます。 地階についてはどうでしょうか。地階は降りていった最初の階が地下1階であり,これについてはすでに 合理的表記になっています。
数える出発点がもともと0からとなっているものの例としては,時間がそうです。 深夜のスタートを0時00分00秒とし,1時間後が1時00分00秒としていて,大変便利です。 しかし年月日は,0年0月0日としないのはどうしてでしょうか。西暦2000年は20世紀か21世紀か迷うところです。 数直線的感覚からいうと,0を出発点とした方がやはり合理的であるように感じますが,いかがですか。
日常の様々な現象において,数える出発点を1とするか0とするかは,文化や歴史やその現象の捉え方によって様々ですが,
その現象が,無の状況から起こるか,有の状況から起こるか,あるいは連続的変化か,離散的変化なのかにより,
使い分けているのでしょう。いずれにしても0はかなり自然数に近い概念であり,未だに我々を悩ましている存在です。