1. アキレスは亀を追い越せるか


議論を明確にするために,アキレスと亀が100m競争をするとしましょう。アキレスは古代ギリシャ 随一のスプリンターですから100mを10秒,すなわち10m/秒で走るとします。亀は4m/秒 (亀の中では驚異的に足の速い亀です)で走るとします。亀は100mの中央の50m地点からスタート するとします。


  1. アキレスが亀の位置まで走る時間は,50/10=5秒ですから,その間に亀は4×5=20m進みます。

  2. 次にアキレスが20m先の亀の位置まで走る時間は,20÷10=2秒かかります。その間に亀は4×2=8m進みます。

  3. さらにアキレスが8m先の亀の位置まで走る時間は,8÷10=4/5秒かかります。その間に亀は16/5m進みます。

  4. 同様にアキレスが16/5m先の亀の位置まで走る時間は,16/5÷10=8/25秒かかります。
    その間に亀は32/25m進みます。

  5. ・・・・



この様に,アキレスが亀の位置まで行くのにかかる時間は,

5+2+4/5+16/32+・・・

ですから,

加える時間は小さくなっていくものの,無限に加えていくので,その時間はどこまででも大きくなり,いつまで経っても追い越せない

となるわけです。どこか変ですね。
ここまでくると問題の核心が見えてきました。つまり,

5+2+4/5+16/32+・・・が有限か無限か,

ということを議論すればよいわけです。

ところで,この無限和はどのようになっていくのでしょうか。ここに29項までの和を順次計算したものを下に示します。

この無限和を29項まで計算すると

この様に,この無限和はある値を超えません。つまり有限な値に収束します。 ここでちょっと数学を思い出すと,

無限級数について

ですから,アキレスが亀の位置まで行くのにかかる時間は

25/3=8.333・・・秒

であり,決して「いつまで経っても」追いつけないのではありません。 つまり,この無限和は追いつくまでの時間を計算していることになるわけです。

従ってゼノンの逆説を正しく言うと,

「・・・この状況はいつまででも続くのではなく,有限の時間までであり,それはアキレスが亀に追いつくまでである。」

というべきです。

「数字を無限に加えていっても無限に大きくなるとは限らない」ということを理解することが大変難しいことだった,ということです。


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