4. 瞬間には動いているのか静止しているのか


こんな小咄があります。


買い物に自動車で出かけたAさんは,制限速度が時速40Kmの道を時速60kmで走っていました。
するとパトカーに制止されて,お巡りさんに注意を受けました。「この道の制限速度は時速40kmですよ。
あなたは今時速60kmで走っていましたので違反です。」

するとAさんは「そんなはずはありません。私は家を出てまだ5分しかたっていません。」

自動車には速度計が付いていて,刻々の速度を表示しています。さて,速度というものは[移動した距離]/[かかった時間]で計算しますが,

瞬間の速度はどうやって測るのでしょうか。

上の小咄のように,1時間経って40km移動すれば時速40kmであることは明白ですが,ある瞬間に 時速40kmである,ということを理解するには若干の準備とそれなりの手順が必要です。ここではその手順を考えてみましょう。



上のアニメーションは,時刻t=0秒で動き出した自動車が段々速度を増し,中央辺りで時速約80kmに達してから減速を始め,時刻t=30秒に停止する様子を 表しています。この自動車は刻々と速度を変化させて走っていますが,時刻t=10秒における速度を求めるにはどうすればよいでしょうか。これを求めるアイデアは数学の世界では「微分」 と呼ばれており,17・18世紀頃ニュートンやライプニッツ等によって確立されました。

下のアニメーションをご覧下さい。時刻t=10秒における速度を求めるには次のような手続きをします。


  1. まず自動車の時刻t=10秒での位置を調べます。
  2. 次に,時刻t=10秒から少しの時間凾舶b(例えば1秒,0.1秒・・・等)を 暫定的に設定します。
  3. この凾舶b間に自動車が移動した距離を凾(km)とします。
    ここで,速度=[移動した距離]/[かかった時間]ですから凾/凾狽ヘ凾舶b間の平均的な速度が算出できます。
  4. 次に,暫定的にとった凾狽0に近づけていくと,平均的な速度凾/凾狽ヘ,時刻t=10での速度のよりよい近似となっていく,と考えます。
  5. 凾狽0に限りなく近づけると,究極的に(極限として)時刻t=10での瞬間の速度という意味になります。


上記のような「微分」という操作をグラフ上で考えてみましょう。

自動車の位置xは出発点から最終点に向かって時間と共に変化していきますから,時間の関数としてx(t)と書くことにします。
それに伴う速度v(t)は,時速0kmから時速80kmまで変化しながら,最終点で停止します。



グラフ上で上と同様の微分という操作をしてみましょう。


  1. t=10から凾舶b間の移動した距離凾を読み取り,凾/凾狽算出すればそれが,それが凾舶b間の平均の速度です。
    (さて,この凾/凾狽フグラフ上での意味は何でしょうか。これは2点ABを通る直線の傾きですね。)

  2. 凾狽限りなく0に近づけるとき,凾/凾狽ェある値に近づいていきます。それがt=0での瞬間の速度です。
    (B点は凾煤ィ0に伴ってA点に近づいてきますから,凾/凾狽ヘ結局A点での接線の傾きという意味になります。)

まとめると,

時刻t=10秒での瞬間の速度は,位置を表す関数のA点での接線の傾きを表している

ということです。

さてここまでくると,ゼノンの逆説「飛んでる矢は止まっている」の答えが見えてきたのではありませんか。

瞬間という意味は,そこでは時間の間隔は0ですが,初めから0で議論をするのではなく,暫定的な 仮想の間隔凾狽想定して議論し,その凾狽限りなく0に近づけた極限でもって瞬間を理解しています。

従って,自動車も矢も動いているものは,その瞬間において速度を持っています。

この状況を「動いている」というのか,「静止している」というのかは,言葉の定義の問題になりますから軽々しくは結論できません。しかし

極限の操作を了解した上では,瞬間においても動いている

と考えた方がよいと思います。(数学では「無限小の時間間隔に無限小の移動がある」,というような理解の仕方をすることがあります。)


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