乗鞍岳は岐阜県と長野県の県境にあり、多くの峰と湖沼・平原を持つ火山群の総称です。活火山とされていますが、有史以来の活動の記録はありません。しかし、地形には火山として特徴が随所に見られます。
最高峰の3,026mの剣ヶ峰をはじめとして南北に稜線が伸び、稜線からは放射状に谷が発達しています。険しい谷は古い火山体が浸食・崩壊してできたものです。反対に平坦な地形は新しい溶岩流により谷が埋められてできました。火山の様々な地形を観察し、形成された過程を想像してみましょう。
乗鞍岳には乗鞍スカイラインにより比較的易しく3,000mの高山へ訪れることができます。しかし、乗鞍岳は国立公園の特別保護地域に指定されていて、特別天然記念物のライチョウをはじめ、高山植物などの貴重な自然が残されている場所です。登山道以外への立ち入りはできませんので注意して観察しましょう。
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乗鞍岳の形成過程は大きく2つの時期に分かれます。
古期の活動は125〜128万年前に始まり、しばらく間をおいて86〜92万年前に千町火山体が形成されました。その後大きな休止期があり、その間に千町火山体の北側が大きく崩壊や浸食を受けました。現在は南側の斜面の一部が丹生川村と高根村の境になっている千町尾根などに痕跡が残されているだけです。
新期の活動は12〜32万年前から現在の恵比須岳付近を中心に起こり、2つの山頂を持つ烏帽子火山体が形成されました。その後、この烏帽子火山体も浸食や崩壊を受け山頂部などが失われました。現在残されている山体は烏帽子岳、大黒岳、猫岳、大丹生岳など乗鞍岳の北側の稜線を形作っています。この崩壊した山体の上に10万年前から現在までに3つの火山体が形成され現在の乗鞍岳を形作りました。最高峰の剣ヶ峰を擁する権現岳-高天原火山体、乗鞍スカイラインの終点の畳平近くの恵比須火山体、乗鞍岳の北側を形成する四ッ岳火山体です。
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125〜128万年前に飛騨高原の一角、標高2,000mほどの地域に火山が活動を始めました。その後86〜92万年前に主な活動期となり、現在の権現池付近を中心とした標高3,000mを越えるほぼ円錐形の火山体を形成したと考えられます。千町火山体は安山岩質の溶岩流を主体としていました。しかし、その後の長い休止期の間に火山体の北半分以上が浸食や崩壊によって失われてしまいました。
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12〜32万年前に千町火山体が崩壊した北側に新たに成長した火山体です。現在残されている当時の噴出物から復元すると、現在の四ッ岳付近と恵比須岳付近〜摩利支天岳付近の2カ所を噴出の中心とする標高2,800〜2,900m程の火山体であったと推定されています。活動後にこの火山体の多くの部分が浸食と崩壊によって失われています。現在の大崩山−猫岳−烏帽子岳−大丹生岳−硫黄岳がつくる稜線は烏帽子火山体の北側が、烏帽子岳−大丹生岳−大黒岳−富士見岳−里見岳の稜線は烏帽子火山体の西側が浸食・崩壊して形成されたものです。
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約4万年前に烏帽子岳火山体の北側の崩壊した部分に噴出した溶岩ドームと溶岩流によって形成されました。四ッ岳火山体から流れ出した溶岩流は、谷に沿って平湯まで達し、平湯大滝を作っています。
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烏帽子火山体の西側の部分が崩壊や浸食を受けた後、約2万年前に形成された火山体です。溶岩ドーム状の溶岩丘があり、直径400mほどの火口は現在、亀ヶ池となっています。火口からは恵比須溶岩が西側へ流れ出ていて、溶岩堤防や溶岩の表面にできるしわなどの構造が現在も残されています。また、恵比須火山からは約2,000年前にも火山灰を噴出する活動があったと推定されています。
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10万年ほど前に乗鞍岳の南の部分で活動が始まりました。以前存在した千町火山体の残りの部分を覆うように高天ヶ原火砕岩やいくつもの溶岩が噴出しました。中でも東側に流れ下った番所溶岩は標高1,285mの番所大滝付近まで達しています。
また、位ヶ原溶岩は番所溶岩と共に乗鞍岳東斜面のなだらかな地形を形成しています。権現池-高天ヶ原火山体の大部分は5万年前以降に形成されたもので、平金溶岩や剣ヶ峰溶岩により権現池火山体が形成されました。そして9,400〜9,000年前に権現池火口から岩井谷溶岩が西側に流れ下りました。その後はマグマの噴出を伴わない水蒸気爆発を中心とした小規模な活動が繰り返されてきました。
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< 参考文献 >
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岐阜県高等学校地学研究会,1995,アースウオッチングイン岐阜,岐阜新聞・岐阜放送
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高橋正・小林哲夫編,2000,フィールドガイド日本の火山E 中部・近畿・中国の火山 ,築地書館
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中野 俊・大塚 勉・足立 守・原山 智・吉岡俊 和,1995,乗鞍岳地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅),地質調査所
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中野 俊,乗鞍火山,1998,日本地質学会大105年学術大会見学旅行案内書
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